Home 資料集 コラム 地球にとってのお金とは? - 地球環境とお金の歴史に見る金融・経済の捉え方 - 月刊『信用金庫』寄稿記事
地球にとってのお金とは? - 地球環境とお金の歴史に見る金融・経済の捉え方 - 月刊『信用金庫』寄稿記事 PDF 印刷

社団法人全国信用金庫協会の機関紙「月刊『信用金庫』」に、環境問題と金融経済教育をテーマにしたコラムを寄稿しました。

紙面の都合上、省略した部分も多かったため、このサイト上にコラムの補足情報を掲載します。

環境問題とお金の関係

私は、企業の環境ビジネス・環境活動のコンサルタントをしている。環境ビジネス・環境活動の成功を左右する重要な要素の一つが、現場の人たちの環境意識だ。ここでいう環境意識とは、「環境問題の意味と自社の環境ビジネスの意義が腑に落ちているかどうか」だ。環境ビジネス・環境活動で成果を挙げている人は、「地球にとっての人間」、「子供の世代のための現在」という多次元的な尺度を持っている。そうでない多くの人は「今の自分にとっての環境」という尺度しかない。

地球ロールプレイここに着目してクライアントに成果をもたらすために「『自分中心の視点』から『地球中心の視点』にパラダイムシフトを図るワークショップ」を創ろうと思い立った。これが、ワークショップ『地球ロールプレイ』である。

ワークショップ『地球ロールプレイ』は、「地球にとっての人間」のように「地球にとっての●●」というテーマで行う。そのうちの一つが、「地球にとってのお金」である。このテーマの狙いは、地球中心の視点で「お金」を捉えることで、地球環境問題を引き起こす構造的な欠陥に気づくことだ。本稿ではワークショップ『地球ロールプレイ』を紹介しながら、地球環境とお金の関係を紐解く。それがこれからの金融経済教育のヒントになれば幸いである。

ワークショップ『地球ロールプレイ』とは

地球ロールプレイこのワークショップでは、参加者に地球になっていただく。とは言え、いきなり「地球になれ」と言われても、そうそうできるものではない。そこで、ワークショップに入る前に、私がCGやスライドを使って地球46億年の思い出話をする。みなさんはご自分の幼少期のアルバムを見ながら「あなたはこんな子だったのよ」などと母親に思い出話をしてもらったことがあるだろう。その感覚で私がまるで見てきたかのように語ることで、参加者の皆さんに地球の生い立ちをイメージしていただく。

ワークショップの後で、人類(私)から地球(参加者)に地球の過去や未来について質問し、参加者のみなさんが地球になってお答えいただく。特に正解があるわけではない。「もし自分が地球なら人類にこう言いたい」と主観100%でお答えいただく。ときにグループディスカッションで地球としての意見をまとめていただくスタイルをとる。

「お金」をテーマにした『地球ロールプレイ』では、「お金の歴史」、「お金の機能」、「地球から見たお金の矛盾」についてのショートセミナーも行う。このセミナーに続くワークショップでは、参加者が地球の目線で人間へお金の問題を提起し、改善の視点を自由に表現する。本稿では、このうち「地球から見たお金の矛盾」について次にまとめる。

地球から見た「お金」の矛盾

地球からの出荷価格

板倉雄一郎さんの「お金と経済の本質 [価値を創出するものが豊かになる] 」というDVDの中で、洗面器を例にモノの価格がどのように決まるかという話が出てくる。洗面器の原料である原油を掘り出した人が最初に値決めして、その後の工程に関わった人たちのコストが次々に乗っかって、洗面器の値段が決まる。ごくごく当たり前の話に思える。しかし、地球から見ると、これはおかしい。原油を最初に出荷したのは地球であるにもかかわらず、地球は値決めしていない。つまり、地球からの出荷価格は無料。すべての自然資本はタダ。地球から見ると、お金の仕組みに地球が参加していなければ、地球の資源消費に歯止めがかからないことは明らかだ。しかし、地球の提供可能な資源は有限なのだ。

複利

利子による成長曲線例えば、8%の複利でお金を貸して、10年後に一括返済してもらうとしたら、元金の何倍を返してもらうことになるだろうか?
2.1倍である。一括返済というのは極端だとしても、複利であれば返済額の増加は直線的でなく、このグラフのような上昇曲線を描くことに変わりはない。
つまり、複利とは、企業に事業の急拡大を迫る仕組みなのだ。だから、あらゆる商品の価格には金利が上乗せされる。複利は、経済規模を拡大し続けなくてはいけない仕組みなのだ。

兌換性の撤廃

「兌換(だかん)」とは、紙幣を額面金額と同価値の金銀貨または金銀地金などの正貨と引き換えることを言う。米ドルは1971年に金との兌換制度を廃止した。通貨の兌換性がなくなることは、地球の資源量と無関係に通貨を発行できるということ。つまり、お金が根拠レスに発行できる可能性を持ったということなのだ。

金融商品の複雑化

20世紀半ばの米国で自動車ローンが始まった。これは現金で買う能力のない人に車を買わせる仕組みだ。これを機に米国ではモノを買わせる仕組みとして金融工学が駆使されるようになった。支払能力のない人にモノを買わせる仕組みの究極が、サブプライムローンだ。しかも、このサブプライムローンの債権が証券化され、様々な金融商品に組み込まれたため、どの金融商品にその債権が含まれているのか容易に把握できなくなった。企業の債務不履行リスクを補償する「CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)」もひどいものだ。昨今の金融危機でCDSを大量に売った金融機関がたちまち経営危機に陥ったことからも、いかに根拠レスな金融商品だったかが露呈した。このように複雑化した金融商品は、お金の一人歩きを助長した。

このように地球になって考えると、「お金のXデー」が予感できる。「お金のXデー」とは、「地球の資源量を超えてお金が流通していることに多くの人が気づいたときには、お金とモノの交換が不能になり、お金のシステムが崩壊する日」のことだ。

このような「地球から見たお金の矛盾」を踏まえて、ワークショップが始まる。

ワークショップ(人類から地球への質問と地球から人類への回答)

ワークショップでは人類(司会者)から地球(参加者)に「地球から見て、お金にはどんな問題があるのか?」、「お金の仕組みのどこをどう直したらよいのか?」という2つの質問をする。

3月14日に株式会社テラ・コーポレーションと個人向けにワークショップ『地球ロールプレイ』を開催した。そのときの地球(参加者)からの回答が、下図にまとめられている。

地球にとってのお金とは

「地球の資源は有限なのに、人間はとっていくばかり。人間から地球に返す仕組みが必要。」

「資源が循環するような仕組みが必要。」

「お金の一人歩きが問題。自給自足、ボランタリー経済、肉体労働を見直さなくては。」

「個人排出権、環境税、フードマイレージなどを、地球からの出荷価格の代わりに制度化できないだろうか。」

などなど、参加者のみなさんには、地球からお金を捉えることで本質的な問題に気づいて自分の言葉で表現していただくことができた。

これらの回答に正解はない。正解は誰にもわからない。だれも地球ではないのだから。

とは言え、地球の立場から物事を捉えて自分の言葉で表現することで、参加者の皆さんは、地球にとって人間ははるかに小さく脆い存在であることや、お金が地球のシステムとはかけ離れたシステムであることに気づくことができる。この意味は、環境問題の本質的な理解において非常に重要だ。

『地球ロールプレイ』に見る金融経済教育プログラムへのヒント

私たちは、普段お金のルールの中で生活している。決められたルールの中で、どうしたらゲームに勝てるかを考えて行動している。しかし、「このルールでよいのか」を考えることはめったにいない。世の中にある金融経済に関するセミナーは、ゲームの勝ち方であって、ルールの見直し方ではない。政治家ですら既存のルールの中でしかモノを考えていない。環境問題の根本に「お金」がある。そのことに気づくためには、「ルールの見直し方」をテーマにした金融経済教育のプログラムが求められる。

将来世代が安心して暮らしていくために今のお金のルールでよいのか?

改めてお金のルールを「地球」側から見てみよう。お金は、人間が地球上の資源を用いて財やサービスを交換するための仕組みだ。ただし、この仕組みには「地球」というプレイヤーは参加していない。だから、地球からの出荷価格はタダ。その結果、お金は地球の資源量とは無関係になっている。私たちは経済成長したほうが勝ちというルールを信じているが、どこまでも成長し続けられるかというと、そんなことはない。地球の資源量を超えることはできない。しかし、お金のルールが地球の資源量と無関係なだけに、今のルールでは限界まで資源争奪戦が続くことになる。これが、「地球」側から見たお金のルールだ。

それでは、私たちは「お金」のルールをどのように変えたらよいのだろうか?

私が地球なら、まず「資源消費量は一定期間内に再生可能で人間が利用可能な範囲にとどめなきゃダメだよ」と人間に言いたくなる。そのためには、経済成長したほうが勝ちというルールも直さなくてはいけない。このように「お金のルールの直し方」について考える金融経済教育があったら、どれだけ世の中がよくなるだろうと思わないだろうか。

今のルールで勝つことに拘っているグローバルな金融機関には、このような教育プログラムは迷惑千万だろう。このような教育プログラムを担えるのは、地域金融機関をおいてほかにはいない。

新しいお金のルールにおける地域金融機関の役割


お金を地球の資源量に範囲内に収める新しいルールを広めていくのに重要な役割を果たすと期待されるのは、だれか?

それは、間違いなく、信用金庫をはじめとする地域金融機関だ。人間の資源消費量を一定期間内に再生可能で人間が利用可能な範囲にとどめるには、資源の移動量、移動距離、移動スピードを制限すればよい。それは法的には不可能だが、現象的にはとっくに実現している。地域の資源を最大限に利用して、地域で生産、加工、販売している地域企業が、まさにそれだ。ならば、そのような地域企業を支える信用金庫をはじめとする地域金融機関が、新しいルールの担い手に最もふさわしい。地域金融機関が新しいお金のルールの担い手になるために、次の2つの役割を期待したい。

お金のトレーサビリティ

「トレーサビリティ」とは、「商品の生産、流通の履歴の追跡可能性」という意味で、主に食品業界で使われている言葉だ。2008年の金融危機の引き金になったのは、複雑に証券化された金融商品である。つまり、どの金融商品に何を証券化したものが組み込まれているのか追跡不能な状態になったことに端を発している。このようなトレーサブルでない金融商品の氾濫は、地球の資源と無関係なお金のルールが招いた結果だ。私たちの未来を拓く新しいお金のルールは、資源本位の金融だ。儲かるかどうかより、顔が見えるかどうかが優先する金融だ。

地域資源の目利き

もう一つは、地域資源を付加価値化する役割である。地元で当たり前のものが、他地域で思いもよらぬニーズがあったりする。例えば、近年、森林体験や農業体験を組み合わせたイベントが人気だ。都市に暮らす人たちの「癒しニーズ」に訴求した成果だ。温泉にしても、従来は単なる観光資源としか考えられていなかった。ところが、昨今では地熱発電の適地として注目されている。各地の信用金庫が全国の地域に広がるネットワークを活かし地域資源の新しいニーズを発掘する「地域資源の目利き役」となってほしい。

信用金庫がこの2つの役割を果たすようになると、地域への投資がスムーズになり、地域の「お金の自給率」が上がる。これが、地域の活性化に重要な役割を果たすことになる。

「お金の自給率」とは、「地域からの出費に占める地域への収入の割合」のこと。地方に暮らす方は、海外で作られた商品を大都市に本社がある店で買うケースが多いだろう。だから、多くの地方では出費のほうが収入より多くなる。つまり、お金の自給率は100%未満になる。これだと、地域にお金が足りなくなる。

お金の自給率が低ければ、当然、地域に活力は生まれない。「お金のトレーサビリティ」と「地域資源の目利き」の仕組みが地域に整えば、地域にお金が流れるルートができる。地域からの出費を減らし、地域への収入を増やすことにつながる。つまり、お金の自給率が上がる。

信用金庫をはじめとする地域金融機関には、お金の自給率を高める役割を担い、地球環境の保全と地域の活性化に貢献していただくことを期待している。

参考文献